固体高分子物体の分子構造は、個々の分子鎖が長いため、それらが凝集すると分子鎖どうし絡み合った状態になりやすい(図1)。
ところが、高分子の種類の中には、分子鎖を構成する分子どうしが規則正しく重なり合って、そのような分子鎖どうしが凝集すると、
隙間を詰めた高密度な分子構造をした固体になる(図2)。それが結晶性高分子である。
結晶性高分子が温度に対してどのような粘弾性挙動を示すか下記の条件により得たデータを考察する。
図3縦軸左のE’(Pa)は貯蔵弾性率といい、物体が外力を与えられて生じる内部エネルギーである。
極低温-150℃から温度上昇に対して黒い曲線がなだらかに下降している。これは、試料の熱膨張に伴う、凝集力の緩和過程である。
0℃付近でその曲線に変局点が生じ傾斜が急になっている。結晶構造の物体にはガラス転移は生じないが、結晶性高分子には非結晶の部分もあり、
このガラス転移が0℃付近から始まっているのである。ガラス転移では、凝集力により静止していた分子鎖が僅かな運動を始めるため内部エネルギーの低下が顕著になる。
傾斜が急になる理由である。
ガラス転移を終えると、分子鎖の僅かな運動は継続しているが、曲線はまたなだらかな傾斜に戻る。この傾斜におけるE’(Pa)が結晶構造の弾性率である。
非結晶部分を占める割合が少ない(結晶部分が多い)ほど、E’(Pa)は高い。240℃付近からの急傾斜は融点から生じる液化現象である。
赤い曲線E”(Pa)は損失弾性率といい、物体が外力を与えられて、生じる熱エネルギーである。
損失の由来は物体の内部エネルギー増量にならず、外部へ拡散する意味をもつ。さて、この曲線は黒い曲線のようなかたちと異なり凸凹が生じている。
凸が生じる原因は、物体が温度との関係で転移(凝集構造に変化)が生じ、運動エネルギーの上昇によるものである。
-60℃付近の凸は結晶構造特有の転移、40℃付近の凸はガラス転移である。ガラス転移では分子鎖を構成する個々の分子間において回転運動を行い、
分子鎖全体が振動するため、運動エネルギー最大となる。
図3縦軸右のtanδ(青い曲線)は損失係数といい、
内部エネルギーE’(Pa)と比較した熱エネルギーE”(Pa)の大きさに関するパラメータである。50℃付近における大きな凸は、
ガラス転移の影響で生じており大きな理由は上記の通りである。
本測定には、ナイロン6-6を使用したが、結晶性高分子と非結晶性高分子の分類を表1に挙げる。