被着体に張り付いた粘着テープを引き剥がす過程では、粘着力(粘着剤の応力)が生じている。
粘着力よりも強い力でテープを垂直に引っ張ると粘着面の端から順次に剥離する。
引っ張る力を強めてゆき、剥離しはじめる力が粘着力である。
粘着面が被着体から剥離しはじめるまでの間には粘着層の伸張が生じている。
外力と伸張の間にはクリープ(伸張速度)の関係がある。粘着剤に動的外力を与えると、
動的ひずみが生じる。この外力とひずみの関係により求まる動的弾性率の測定結果から粘着剤の性質について考察する。
本測定は測定温度を等速昇温させているので、動的弾性率と温度の関係をみる。
動的弾性率には貯蔵弾性率G’(Pa)と損失弾性率G”(Pa)があり、温度との関係がそれぞれ図1と図2である。
貯蔵弾性率は物体に外力とひずみにより生じたエネルギーのうち物体の内部に保存する成分、損失弾性率は外部へ拡散する成分である。
図3のtanδは損失係数といい、G”とG’の比である。
貯蔵弾性率の曲線(図1)をみると、-50℃と0℃の間で急傾斜を示している。この温度範囲で固体からゲルの状態に変化しており、
0℃より高温側ではなだらかな傾斜になっている。急傾斜を示す温度範囲をガラス転移領域、なだらかな傾斜の温度範囲をゴム状平坦域という。
ゴム状平坦域における弾性率(以下ゴム弾性率)が高い傾向にある物体は分子量が大きい。そのため分子鎖の絡み合いの密度も高い。
弾性率が高いほど、同じ外力に対してひずみが小さい。物体が粘着剤である場合、それを貼り付けた被着体から引き剥がす際に、
ゴム弾性率が高いほど、粘着剤が伸張するためには大きな外力を要する。
ここで、粘着剤の保持(粘着)力はゴム弾性率が高いほど強い傾向にあるが、
あまり高くなると被着体と接触している粘着剤の界面における粘着力が低下するため、
保持力と貯蔵弾性率間の関係にはそのピークが存在するものと考える。
逆に、ゴム弾性率が低いほど被着体との界面における濡れ(粘着)性が良い傾向にある。ただしゴム弾性率が低いほど、
弱い力で粘着剤が伸張しやすくなる傾向にあるため、粘着力の調整は、ゴム弾性率と関係深いものと考える。
損失弾性率の曲線(図2)をみると、-50℃と0℃の間にそれぞれピークが生じている。このピーク温度がガラス転移温度である。
この曲線から、ピーク温度を知り、その温度が高いほど物体の分子量が大きい。損失弾性率の高さそのものに、
上記の貯蔵弾性率ような意味はないが、同一温度における貯蔵弾性率との比(tanδ)に重要な意味がある。
損失係数tanδの曲線(図3)をみると、図2同様にピークが生じている。
それぞれのピーク温度は図2の損失弾性率のピーク温度よりも高温側にシフトしている。
tanδピーク温度前後では、貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”の傾きの大小が入れ替わっている。
すなわち、同ピーク温度と少し低温側の間では、G’G”の曲線はどちらも右下がりで、G”の方がなだらか、
ピーク温度と少し高温側の間ではG”の方が急傾斜である。言い換えると前者は、損失エネルギーの低下に較べ貯蔵エネルギーの低下が激しく、
後者は緩やかになっている。tanδピーク(上記分岐)が高いほど、力・ひずみにより生じたエネルギーのうち保存成分に
較べ拡散成分が多いことを示し、衝撃吸収(拡散)性が高いと言える。
粘着剤の粘着(保持)力評価にはゴム貯蔵弾性率の高さ、
制振(衝撃吸収)性評価にはtanδピークの高さが関係する。