雰囲気温度を連続的に変化させながら試料に動的力を与えることにより、弾性率変化をみることができる。
低温において固体の薄い膜が温度上昇に伴い軟化が始まり(ガラス転移)、弾性率の低下が進行する。
温度と弾性率の関係曲線から塗膜の構造的な違いを導くための情報を得る。
図1のE’(Pa)は貯蔵弾性率といい、
物体にひずみが生じた際の内部エネルギー増加成分である。E’の曲線が109(Pa)以上で平坦にある温度範囲は物体が固体であることを示す。
固体では試料B、C、Aの順に貯蔵弾性率が高いことから内部エネルギーの増加が大きい順に相当する。
その順位が2番手の試料Cは-50℃からなだらかにE’が低下(この状態でも固体)しており、他の2種は平坦である。
試料Cは他と構造上の違いがあると考えられる。
10℃を過ぎると試料A、C、Bの順に変局点を示しE’の曲線が右下がりの急傾斜を示す。この変曲点から各試料ともガラス転移がはじまり、
分子鎖どうしの絡み合いが解れはじめている。
試料AとBは変曲点以降の傾斜も平行であることから、物体の成分は等しく分子量の違いが考えられる。分子量が大きいほど分子鎖の絡み合いは密になり、解れはじめる温度が高くなる傾向になる。
図2のE”(Pa)は損失弾性率といい、
物体にひずみが生じた際の損失エネルギー(物体外に熱として拡散する)成分である。
上に述べたガラス転移がはじまる温度付近から、E”が上昇しており、損失エネルギーの増大を示している。
この曲線のピーク温度をガラス転移温度という。
E”(損失エネルギー)上昇の理由は、ガラス転移がはじまることにより、それまで分子鎖の凝集構造が徐々に解放され、
外力による物体のひずみが大きくなる傾向がひずみによる損失エネルギー増大となるのである。
E”ピークを迎えた後の右下がり傾斜は、ある程度分子鎖の絡み合いが解れることにより、ガラス転移開始から低下が進行していた、ひずみに伴う全エネルギーが小さくなるため、
損失エネルギーもそれに依存して低下が進行する。
図3のtanδは損失正接といい、直角三角形のtan(正接)を想定すると、
その鋭角に対して上に述べた二つのエネルギー成分のうち損失弾性率E”(Pa)が対辺、貯蔵弾性率E’(Pa)が隣辺に相当する。従ってtanδ=E”/E’である。
各試料tanδピークはE”とE’の比が最も大きい値であることを指す。図1~3を照合すると、
- tanδの上昇開始はE”の上昇開始に伴っている
- E”ピーク温度では、tanδはまだ上昇を続けている。
- E”ピーク温度からtanδピーク温度間では、E”の下降傾斜がE’の傾斜よりも小さい。
- tanδピーク(折り返し)から、E”の傾斜がE’の傾斜よりも大きくなっている。
tanδの曲線はE”
(損失弾性率)の曲線に依存していることから損失正接または損失係数という。損失エネルギーの増大は物体の粘性が生じることに相当する。増大前は損失エネルギーが極めて小さく、殆ど貯蔵エネルギーに相当する弾性に支配されている。
tanδピーク(E”とE’の比の最大値)が大きいほど損失エネルギーの比が大きいことを示していることから、物体がその温度ではより粘性の傾向が強い。粘性の傾向が強いということは、貯蔵エネルギー成分に較べて損失エネルギー成分の度合いが大きい。
損失エネルギーを吸収エネルギーとも云い制振特性は吸収エネルギー比率が大きいほど高い。