ある容積のトナーは微粉末の集合体であり、室温下において手に触れるとサラサラした状態である。
この状態で試料に外力を与えると、粒どうし擦り合うだけで、その集合体にひずみが生じたわけではないので弾性率を求めることは出来ない。
そこで集合体トナーをシリンダー(筒)に入れ、加圧すると凝集したトナーは1個のペレットになる(図1)。
このペレットを加温し、昇温過程の動的粘弾性測定を行った。
図2は動的複素粘度(以下粘度)η*と温度の関係である。
90℃付近で粘度が急上昇しているのは次の通りである。測定開始温度40℃から昇温過程90℃付近まで試料(ペレット)が硬く、外力を与えると試料とプレートの接触面(図3)で滑りが生じる。
そのため外力が小さく、それに比例する粘度は低くなる。90℃付近で試料が柔らかくなると、滑りがなくなるため外力が急上昇し、粘度は急上昇するのである。
粘度が急上昇した後、110℃付近までなだらかに下降しているのは、試料の軟化が進んでいるためである。その温度から粘度が急降下しているのは、試料の溶融開始を迎えたためである。
粘度曲線が急降下した後、120℃以降はややなだらかに下降している。
本測定法は、ペレットが軟化をはじめてからの粘度データについて有効である。
試料間における溶融開始温度や溶融粘度の違いは分子量が関係する。溶融粘度曲線の傾きの違いは、物質の応力緩和挙動が関係する。急な傾きほど粘度低下が速いことを示し、
この特性はトナーを熱転写させる条件を検討するうえで、関係の深いデータになると考える。
例えば、トナーをある水準の溶融温度で加熱すると、溶融が速いトナーは紙と素早く親和するため熱転写時の紙送りを速めることができる。
反面、あまり溶融が速いトナーを使用すると、転写後の品質に悪影響を及ぼす可能性も考えられる。
溶融速度の評価により熱転写の品質を予測できれば幸いである。